2026年12月施行!知っておくべき日本版DBS制度の概要と、今から始めるべき法的・体制整備の論点

こども性暴力防止法(日本版DBS)の施行(2026年12月予定)まで、残すところ約1年となりました。

このコラムをご覧の事業者様の中にも、「制度の詳細は分からない」「ガイドライン待ちで、どこから準備を始めれば良いか分からない」「そもそもうちの事業は対象になるのだろうか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、施行に向けた初期段階として、日本版DBSの基本概念と、ガイドライン公表を待つ間に企業が検討すべき重要な論点について分かりやすく解説していきます。

目次

制度の創設背景と目的

深刻化する子どもの性被害と社会的な危機感

こども性暴力防止法(日本版DBS)が創設される背景には、子どもが被害者となる性犯罪は深刻な水準で増加傾向にあるという厳しい現実があります。

  • 性犯罪の認知件数の増加:警察庁の統計によると、令和4年における少年が主たる被害となる性犯罪の認知件数は2,776件
  • 児童ポルノ事犯の検挙件数の増加:インターネット上での被害も深刻化しており、児童ポルノ事犯の検挙件数は3,035件

いずれも前年より増加の傾向にあります。
これらのデータが示すように、子どもを性犯罪の危険から守るための早急な対策が社会全体から強く求められていました。

「十分な法整備」がされていない現状への対応

これまで、わが国では子どもに関わる職種に就く人の性犯罪歴を雇用主側が包括的に確認する十分な法整備がされていませんでした
この「法の抜け穴」を悪用し、性犯罪歴のある者が教育機関や福祉施設など、子どもと日常的に接する場で再び就業し、被害が繰り返されるという事態を防ぐことが、制度創設の根幹にあります。

既存制度の限界

過去に子どもの性被害防止に関する規定が全くなかったわけではありません。
例えば、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」や「児童福祉法」などには、子どもに対する性暴力を行った場合に教員免許や保育士登録の取り消し等を行う仕組みがあります。

しかし、これらの制度だけでは、失効や登録の取り消しの事実を見落とす危険があったり、そもそも性犯罪歴があっても教員免許等が失われていなければ、雇用主側が事前に犯罪歴を知る術がない制度となっており、子どもの安全確保の観点からは不十分でした。

新たな日本版DBS制度は、これらの課題を克服し、確認を確実に行うためのものです。

日本版DBSの目的

日本版DBSでは、子どもに対する性犯罪は、生涯にわたって、その子共の心身に回復し難い重大な影響を与えてしまうことから、「子どもと接する職業(学校、保育所、塾など)に就く人の性犯罪歴を確認し、性犯罪歴のある人が子どもに関わる業務に就くことを防ぐことで、性被害を未然に防止し、子どもたちが安心して教育・保育を受けられる環境を作ること」を目的とされています。

そもそもDBSとは?

「DBS」とはDisclosure and Barring Service(前歴開示及び前歴者就業制限機構)」の略称で、子どもや特に脆弱な立場にある人々を性暴力や危害から守る仕組みとしてイギリスが発祥となり、各国に影響を与えています。
日本版DBSも、この国際的な潮流を背景に創設されることになりました。


【基本構造】日本版DBSの対象と確認される情報

日本版DBSで確認される情報と対象者

確認される情報

日本版DBSで確認の対象となるのは、特定性犯罪と呼ばれる罪を犯し、以下の期間が経過していないものとされています。

  • 拘禁刑の執行が終わってから20年が経過していないもの
  • 拘禁刑の執行猶予の判決が確定してから10年が経過していないもの
  • 罰金刑の執行が終わってから10年が経過していないもの

※「刑の執行が終わってから」とは、出所後や罰金の納付後などを指します。

「特定性暴力」の具体例

対象となる犯罪には、刑法が定める性犯罪のほか、各自治体の迷惑防止条例違反などが含まれます。
具体例:不同意わいせつ」「不同意性交等」「児童売春」「児童ポルノ所持」「痴漢」「盗撮」「未成年者淫行など

対象となる事業者

こども家庭庁の資料によれば、本制度の対象は「こどもたちが大人から勉強やスポーツなどを教えてもらう場所、保育などを受ける場所、そこでこどもに接して働く人たち」とされています。

ただし、ここで注意が必要なのは、事業者の種類によって法律で義務付けられるケースと、任意で国の認定を受けるケースの2段階に分かれているという点です。

義務対象事業者(必ず対応が必要な施設)

以下の事業者は、法律により性犯罪歴の確認(DBSチェック)や性暴力防止措置の実施が「義務」となります。
施行に向け、早期の体制整備が求められます。

  • 学校(幼稚園、小中学校、高校等)
  • 専修学校(高等課等)
  • 認定こども園
  • 児童相談所
  • 児童福祉施設(認可保育所、児童養護施設、障害児入所施設 等)
  • 指定障害児通所支援事業
  • 乳児等通園支援事業   など
任意対象事業者(国の「認定」を受けて実施する施設)

一方で、義務化の対象ではないものの、任意で国の「認定」を受けることでDBS制度を利用できる事業者もあります。
主な例としては、以下の事業者が挙げられます。

  • 専修学校(一般課程)、各種学校
  • 民間教育事業(学習塾、スポーツクラブ等)
  • 放課後児童クラブ
  • 一時預かり事業
  • 病児保育事業
  • 認可外保育事業
  • 指定障害福祉サービス事業   など

これらの事業者は「認定」を受けることで、DBSを利用できるだけでなく、「子どもの安全を確保している施設」として公的に認められることになります
保護者からの信頼獲得という面でも、非常に重要なポイントとなります。
なお、今回は基本の解説となりますので、対象事業者の細かい分類や認定を受けることによるメリットなどを含めた詳細な情報については、また改めて解説をさせていただきます。

確認のタイミングと頻度

日本版DBSによる性犯罪歴の確認(照会)は、一度行えば済むというものではありません
対象事業者は、以下のタイミングで継続的に確認を行う必要があります。

新規採用時

「義務」「任意(認定)」いずれの事業者も、子どもと接する業務に就くスタッフを採用する際には、必ず性犯罪歴の確認を行わなければなりません。

5年ごとの定期確認

採用時に問題がなかったとしても、その後に犯罪が発生する可能性を考慮し、5年ごとに繰り返し確認を行うことが義務付けられています。
事業者には、従業員ごとに前回の確認時期を管理する仕組み作りが求められます。

現職者(制度開始時にすでに働いている人)への対応

制度が施行される2026年12月時点で、すでに現場で働いている従業員についても確認が必要です。
ただし、混乱を避けるため以下のような猶予期間(経過措置)が設けられています。

  • 義務対象事業者: 法施行から 3年以内 に確認が必要
  • 認定事業者(任意): 認定から1年以内に確認が必要

ガイドライン公表前に企業が検討すべき重要事項

機微情報(性犯罪歴)の厳格な管理

日本版DBSにおいて取り扱う「性犯罪歴」に関する情報は、本人に対する不当な差別や偏見を生じさせる恐れがあるため、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。
さらに、今回の新法(こども性暴力防止対策法)では、この情報の取り扱いについて極めて厳格な管理義務が課せられています。

  • 情報の秘匿性: 確認した情報は、目的外の利用が固く禁じられているのはもちろん、漏洩した場合には事業者の社会的信用を大きく損なうだけでなく、法的責任を問われるリスクもあります。
  • 組織的な対応の必要性: 情報漏洩などの事故を未然に防ぐためには、事業所の責任者がルールを把握するだけでは不十分です。実際に情報に触れる可能性のある従業員への教育や、物理的・技術的な安全管理措置(鍵のかかる場所への保管やアクセス権限の設定など)を徹底することが不可欠です。

今回のコラムは基本編となりますので、具体的な「要配慮個人情報の管理に必要な措置」や「社内規程の整備方法」については、今後公開する詳細解説コラムにて深く掘り下げていく予定です。

労務管理との整合性

日本版DBSの導入は、単なる事務手続きではありません。従業員の「採用」や「配置」、「解雇」といった、労務管理の根幹に関わる重大な変更を伴います。

制度を導入するにあたって、以下の労務上の論点を整理しておく必要があります。

採用選考と内定取り消しのルール

性犯罪歴が確認されたことを理由に採用を見送る、あるいは内定を取り消す場合、あらかじめ求人票や雇用契約書、就業規則にその根拠を明記しておく必要があります。
客観的な合理性や社会的相当性を欠く対応は、後々の労務トラブル(不当解雇や損害賠償請求など)に発展するリスクを孕んでいます。

現職者の配置転換や処遇

施行時にすでに働いている従業員に性犯罪歴が判明した場合、「すぐに解雇できるか」というと、日本の労働法下では非常に慎重な判断が求められます。

  • 子どもと接しない部署への配置転換は可能か?
  • 配置転換先がない場合、どのような手続きを踏むべきか?

こうした判断は、労働契約法や過去の判例に基づいた極めて専門的な知見が必要となります。

就業規則(賃金・退職金・懲戒規定)の改定

DBS制度の運用を開始するには、就業規則への記載が不可欠です。

  • 性犯罪歴の照会に同意することを義務付ける規定
  • 虚偽の申告があった場合の懲戒規定
  • 照会結果に基づく配置転換の規定

これらを適切に反映させるためには、行政書士による法制度の解釈と、社会保険労務士による労務実務の視点を掛け合わせた「全方位的な対応」が求められます。

日本版DBSの導入は、法務(行政書士)と労務(社労士)が密接にリンクする分野です。
当事務所では、提携する社会保険労務士と共に、貴社の就業規則が最新の法規制に適合し、かつ労務リスクを最小限に抑えられるようワンストップでサポートいたします。

組織的な準備体制の構築

日本版DBSの導入は、単一の部署だけで完結するものではありません。
制度を形骸化させず、実効性のあるものにするためには、組織全体での準備体制の構築が必要です。
ガイドラインの詳細を待つ間の「今」だからこそ、以下の3つのポイントについて検討を始めることをお勧めします。

責任部署と「DBS管理責任者」の選任

誰がこの制度の運用を主導するのかを明確にします。
通常は人事部や総務部が中心となりますが、性犯罪歴という極めてデリケートな情報を取り扱うため、情報のアクセス権限を最小限に絞った「管理責任者」を置くことが推奨されます。

対象職種と業務フローの「棚卸し」

日本版DBSの照会対象は、直接こどもを指導する講師や保育士だけではありません。
こども家庭庁の指針案等では、迎バスの運転手、清掃員、事務員など、こどもと日常的に接する機会がある職種も広く対象に含まれることが示されています。

そのため、事業者は施行に向けて以下のような「棚卸し」を事前に行う必要があります。

  • 該当ポストの特定:自社の組織図の中で、誰が(どの職種が)「こどもに接する業務」にあたるのかを具体的にリストアップする。
  • 外部委託(アウトソーシング)の確認:給食や清掃、送迎などを外部委託している場合、そのスタッフへの対応をどうするか(委託先との契約の見直し等)を検討する。
  • 実務フローへの組み込み:採用プロセスのどのタイミングで同意を得て、いつ照会をかけるのか。既存の採用・更新フローにDBSチェックをどう組み込むかをシミュレーションする。

このように、あらかじめ対象範囲を可視化しておくことで、ガイドライン公表後、速やかに実務へ移行できるようになります。


まとめ

今回は、2026年12月に施行を控えた「日本版DBS(こども性暴力防止対策法)」の基本的な仕組みと、今から検討すべき論点について解説いたしました。

本制度の導入は、子どもたちの安全を守るための大きな一歩であると同時に、事業者様にとっては「情報の厳格な管理」と「適正な労務運用」という、極めて難易度の高い対応が求められる変化でもあります。

当事務所では、本制度への対応において特に重要となる以下の2点において、手厚いサポート体制を整えております。

  • 「情報管理」への深い知見 性犯罪歴という「要配慮個人情報」を扱うには、極めて高いセキュリティ意識と管理体制が不可欠です。当事務所は個人情報保護に関する法務に精通しており、情報漏洩リスクを最小限に抑えるための体制構築を強力にバックアップ
  • 「社会保険労務士」との強固な提携 DBSの運用は、採用や配置転換、就業規則の改定といった「労務」と切り離せません。当事務所では提携する社会保険労務士と密に連携し、法務・労務の両面から、貴社の実務に即したワンストップのソリューションを提供

今後も当コラムでは、国から公表されるガイドラインの速報や、より実践的な準備方法など、事業者様の助けとなるお役立ち情報を継続して発信してまいります。

制度についてのご不明点や、先行しての体制整備に関するご相談がございましたら、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

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