はじめに:DBSは「前科チェック」だけで終わらない
これまで当サイトのコラムでは、2026年12月に施行される日本版DBSについて、『制度の全体像』、『対象となる施設』、そして『確認が必要なスタッフの範囲』について順を追って解説してきました。
ここで、多くの経営者様や現場責任者様が抱き始めている「ある疑問」があります。
「前科がないことを確認しさえすれば、それでDBS対策は完了なのか?」
結論から申し上げます。
日本版DBSは、単なる「犯歴チェック制度」ではありません。
DBS認定を受けるためには、犯歴の確認と並んで、「安全確保措置」を講じることが義務付けられています。
これは、雇用したスタッフが「今、現場で子供に対して適切な接し方をしているか」を継続的に管理し、不適切な予兆があればすぐに対処できる体制を整えることを意味します。
つまり、過去に犯罪歴がない人であっても、現場で「ガイドライン違反の行為」を行えば、それは事業者の管理責任に直結し、認定の取り消しや社会的信用の失墜を招く恐れがあるのです。
では、具体的にどのような行為が「児童対象性暴力」や「不適切な働きかけ」とみなされるのでしょうか?
今回は、最新のガイドラインに基づき、現場で「絶対にやってはいけない行為」と、指導と加害の「境界線」について深掘りしていきます。
この記事の内容は、当事務所が実施している実務セミナーの根幹となる部分ですので、ぜひ最後までご覧ください。
知っておくべき「3つの区分」と事業者の責任
日本版DBSの運用において、最も実務を悩ませるのは「どこからがアウトなのか」という基準の引き方です。
こども家庭庁のガイドラインでは、子供に対する不適切な接し方を「児童対象性暴力等」「重大な不適切な行為」「不適切な行為」の3つに区分しています。
なぜ、この区分を正確に理解しておく必要があるのでしょうか。
それは、それぞれの区分によって、事業者が取るべき「法的責任」と「人事上の対応」が全く異なるからです。
もし、現場で起きたことが「不適切な行為(注意・指導レベル)」であるにもかかわらず、誤って「重大な不適切な行為(配置転換レベル)」として過剰な処分を下せば、スタッフとの労働紛争(不当解雇など)に発展しかねません。
逆に、見逃してはならない予兆を放置すれば、DBSの認定取り消しだけでなく、最悪の事態を招く恐れもあります。
経営者・施設長が、現場のトラブルに対して「法的に正しい初動」を下すための判断基準として、まずはこの3つの定義を整理していきましょう。
児童対象性暴力等(法的に禁止される5つの加害行為)
この区分は、法律や条例に違反し、刑事罰の対象となる「明らかな犯罪行為」を指します。
日本版DBS制度において、犯歴照会(DBSチェック)の対象となるのは、まさにこの範囲です。
①児童生徒等に性交等をすること又は児童生徒等をして性交等をさせること
これらは、子供の心身に一生消えない傷を負わせる、最も重大な加害行為です。
ガイドラインでは、刑法や児童福祉法に基づき、以下の行為が厳格に禁止されています。
無理やり、または「拒めない関係性」を利用した行為(刑法「不同意性交等罪」など)
暴力・脅迫、または「先生と生徒」「指導者と教え子」など心理的上下関係にある立場を利用し、こどもに不適切な接触や性的な行為を強要する行為。
具体例
・地位の利用:
「従わないとレギュラーから外す」「成績に影響する」などと心理的圧力をかけ、拒否しづらい状況で性的な行為を迫る。
・信頼の悪用:
「特別レッスン」「身体のケア」などと偽り、マッサージ・ストレッチ等の名目で不適切な接触を行う。
・密室での強要:
居残り指導、送迎車内、個室など、助けを求めづらい状況を意図的に作り、不適切な行為に及ぶ。
18歳未満の子供を性的な対象とする行為(児童福祉法「淫行罪」など)
相手が18歳未満であることを知りながら、性的な行為やこれに類する不適切な接触を行うことは法律で厳しく禁止されています。
具体例
・「合意」があるように見せかける行為:
こどもが「好きだから」「いいよ」と言ったとしても、大人がそれを受け入れて性的な関係を持つことは、こどもの成熟度や判断力を踏まえ、大人側の責任が問われます。
・「交際」や「付き合っている」と称する行為:
教師、コーチ、スタッフなどが生徒・利用者と「恋愛関係」を理由にホテル・自宅等で性的な行為に及ぶこと。
・深夜の連れ回しに伴う行為:
業務外にこどもを呼び出し、深夜のドライブ、カラオケ店、宿泊施設など、保護者の目の届かない環境で不適切な接触を行うこと。
地域のルール(条例)で禁止されているわいせつな接触(都道府県「青少年健全育成条例」など)
各都道府県の青少年健全育成条例では、18歳未満の青少年に対して、性交やそれに準ずる「みだらな行為」を行うことが禁止されています。
刑法に至らない場合でも、こどもの心身の健全な成長を損なう行為として、厳しく規制されています。
具体例
・性交に至らないわいせつな接触:
性的な関心を満たす目的で、こどもの体に触れる、または自分の体に触れさせるなどの不適切な接触を行うこと。
・深夜の連れ回しと組み合わさった不適切な行為:
保護者の知らないところで夜間にこどもを連れ出し、カラオケ店・個室・車内などの私的空間で、過度に親密な接触(ハグ、キス、執拗な身体接触など)を行うこと。
・不適切な関係を誘導・正当化する行為:
こどもに対して性的な好奇心をあおる発言をしたり、「特別なこと」「大人なら普通」などと誤認させ、わいせつな関係に誘導する言動を行うこと。
②児童生徒等にわいせつな行為をすること、又はわいせつな行為をさせること
性交等に至らなくても、こどもの性的な自由や健全な成長を著しく損なう「身体への不適切な接触」や「不適切な露出」などの行為を指します。
以下のような行為は、法令により厳しく禁止されています。
性的な意図を持って体に触れる、または触れさせる行為(刑法「不同意わいせつ罪」)
暴力・脅迫、または指導者としての立場を利用し、こどもの胸・お尻・性器などの性的部位に触れること、またはスタッフ側の体に触れさせる行為です。こどもが拒否しづらい状況で行われる接触も含まれます。
具体例
・指導を装った接触:
スポーツのフォーム指導や楽器のレッスンを口実に、必要以上に体を密着させたり、衣服の中に手を入れたりする行為。
・マッサージ等の強要:
「疲れを取ってあげる」などと言って個室に呼び出し、性的な部位やその周辺を執拗に触る行為。
・拒絶できない心理状態の利用:
こどもが嫌がっても、「これも訓練」「先生の言うことが聞けないのか」と威圧し、接触を続ける行為。
18歳未満のこどもを性的な対象として扱う行為(児童福祉法「淫行罪」)
相手が18歳未満であることを認識しながら、性的な満足を目的としてわいせつな接触を行うこと。
「合意があるように見える場合」でも、責任は大人側にあります。
具体例
・「秘密の遊び」と称した接触:
こどもを懐柔し、遊びやゲームの延長を装って、性的な部位を触り合うよう誘導する行為。
・合意を前提としたわいせつ行為:
こどもが拒否していなくても、性的な目的で体に触れたり、わいせつな接触を伴うデートに誘う行為。
地域のルールで禁止されている「わいせつな行為」(各都道府県「青少年健全育成条例」など)
青少年の心身に有害な影響を与える「みだらな行為」や、羞恥心を著しく害する行為が条例により禁止されています。刑法に至らない場合でも、違反となる可能性があります。
具体例
・不適切な露出の強要:
罰ゲームや悪ふざけを理由に、こどもに衣服を脱がせたり、下着姿にさせたりする行為。
・過度な身体接触の常態化:
挨拶や称賛の範囲を超え、執拗に抱きつく、キスをするなど、親密すぎる接触を繰り返す行為。
③性的姿態の撮影、自撮りの要求、及び画像データの所持・提供
直接的な身体接触を伴わなくても、デジタルデバイスを通じた加害行為は、現代のDBS制度において極めて重く扱われます。
16歳未満への「性的な目的」での接近・画像要求(刑法「わいせつ目的面会要求罪」など)
16歳未満のこどもに対し、性的な目的で会おうと誘ったり(SNS・チャット等)、自分の体を撮影した画像を送るよう求める行為は、たとえ実際に会わなくても重大な違法行為となります。
「指導」「相談」「チェック」などと偽装しても、性的な意図があれば処罰対象となります。
具体例
・SNS等での面会誘導:
「秘密の練習をしよう」「悩みを聞いてあげるから夜に会おう」など、性的な意図を隠して二人きりの面会に誘う行為。
・自撮り画像を送らせる要求:
「体のラインを確認したい」「成長記録として写真を撮って」などと指導を装い、肌の露出が多い写真や体を強調した画像を送信させる行為。
児童買春の勧誘や、児童ポルノの所持・提供(児童ポルノ法)
子供を性的なサービスの対象として誘い出す行為(勧誘)や、子供の裸やわいせつな画像・動画を保存・提供・共有する行為は、いずれも明確に法律で禁止されています。
たとえ「ネットで拾っただけ」「昔のデータが残っていただけ」という場合でも、所持しているだけで犯罪となります。
具体例
・不適切な画像の保存:
ネット上で入手した、あるいは以前の教え子から送られてきたわいせつな画像を、個人のスマホやクラウドに保管し続けること。
・情報の拡散:
子供のわいせつ画像や動画を、SNSのグループチャットやオンラインストレージで他者に送る、共有する、転載する行為。
「面白いから共有した」「悪ふざけで送った」など、意図に関わらず送信・転送した時点で犯罪となる。
・勧誘:
子供に金品や対価をちらつかせて、性的な行為や撮影をもちかけること。
・直接ではなく、SNS・ゲームチャット・メッセージアプリを使った勧誘も対象。
性的姿態等の撮影・送信・記録(性的姿態撮影等処罰法 ※2023年施行の新法)
子供の性的な部位や下着姿をこっそり、あるいは騙して撮影すること(盗撮)はすべて法律で禁止されています。
また、そのような映像を送信する・保存し続ける・他者へ転送することも、撮影の有無に関わらず処罰対象となります。
具体例
・着替えやトイレの盗撮:
施設内の更衣室、トイレ、シャワー室などにカメラを設置して撮影する行為。
・衣服の下からの撮影:
階段、運動部指導中、教室内などで、スマートフォンや小型カメラを使って下着を撮影する行為。
・性的影像の送信:
撮影した、あるいは入手した子供の性的な映像を、本人や第三者に送りつける行為(SNS、メール、クラウドにアップロードして共有する行為も含む)。
④ 著しい羞恥心や不安を与える「不適切な接触・盗撮」
この区分は、これまでの「性交等」や「わいせつ行為」に至らなくても、相手を著しく不快にさせたり、恐怖を感じさせたりする行為を指します。
主に各自治体の「迷惑防止条例」で規制される内容です。
体の一部に触れる行為(痴漢行為など)(各都道府県「迷惑防止条例」など)
こどもの体に、衣服の上からであっても、意図的に触れたり触れさせたりする行為は違法となります。
性的な部位に限らず、こどもが不快に感じる接触や、必要性のない身体接触は「痴漢行為」や「迷惑行為」として処罰される可能性があります。
具体例
・執拗な身体接触:
挨拶や褒め言葉を口実に、背中・腰・肩・太ももなどを何度も撫でたり触り続ける行為。
「見本を見せる」「姿勢を直す」など、指導を装った不必要な接触も含まれる。
・背後からの密着・抱きつき:
廊下ですれ違いざまに体を押し当てたり、背後から急に抱きついたりして、こどもを驚かせたり、不快にさせる行為。
下着や身体を狙った撮影行為(盗撮など)(各都道府県「迷惑防止条例」など)
通常は衣服で隠されている部分(下着・身体)を撮影したり、撮影しようとカメラを向けたり設置した時点で、盗撮行為として処罰対象となります。
「実際に撮影できたかどうか」は関係なく、撮影を試みる行為自体が違法です。
具体例
・不自然な角度からの撮影:
階段の下からスマホを向けたり、椅子に座っているこどもの足を不自然な角度から撮影しようとしたりする行為。
「写真の練習」「記録用」などの口実があっても、下着や身体を狙った意図があれば違法。
・隠しカメラの設置・仕込み:
トイレや更衣室はもちろん、教室や部室など一見無関係な場所に、机の下・ロッカー・カバンの中に小型カメラを隠して撮影を試みること。
スマホなどを置きっぱなしにし、録画・撮影モードにしてこどもに気づかれないよう狙う行為。
⑤ 性的羞恥心を害する言動(悪質なセクシュアル・ハラスメント)
身体への接触や撮影行為がなくても、言葉・態度・指導の名目によって、こどもに性的な不快感・羞恥心・恐怖心を与える行為は重大なハラスメントです。
心理的被害が深刻となるケースも多く、学校・部活動・習い事など、あらゆる教育・指導場面で厳しく禁止されています。
性的羞恥心を害する言動とは
こどもを性的な対象として扱う言動や、性的な話題を通じて羞恥心・不安を抱かせる発言を指します。
「冗談」「指導の一環」「コミュニケーション」といった口実があっても、こどもが不快・萎縮・恐怖を感じればハラスメントです。
具体例
・性的なからかい・揶揄:
こどもの身体的な成長(胸の膨らみ、声変わり、毛髪など)を指摘して笑いのネタにする、または性的なあだ名で呼ぶこと。
・執拗な性的な質問:
「好きな人はいるの?」「経験はあるの?」といった、指導に全く関係のない性的なプライバシーに踏み込む質問を繰り返すこと。
・性的体験談の押し付け:
スタッフ自身の性的な経験談を聞かせたり、卑猥な冗談(下ネタ)を日常的に連発して反応を楽しんだりすること。
・性的な役割の押し付け:
「女の子なんだからもっと色っぽくしろ」「男のくせにそんなことでどうする」といった、性別に基づく差別的・性的な圧力をかけること。
ここまで見てきた①〜⑤の行為は、発覚した時点で「警察の介入」や「懲戒解雇」が避けられない行為です。
しかし、多くの性加害事案は、ある日突然このレベルで発生するわけではありません。
実際には、これから解説する「不適切な行為」や「重大な不適切な行為」という前兆(予兆)が必ず存在します。
不適切な行為(加害の予兆・未然防止の要)
日本版DBS制度において、最も実務的な判断を求められるのが「不適切な行為」への対応です。
ガイドラインでは、この行為を単なるマナー違反ではなく、「性暴力に至るリスクを秘めた、看過できない前兆」と位置づけています。
「不適切な行為」の定義と本質
ガイドラインによれば、不適切な行為とは以下のように定義されています。
その行為自体は性暴力ではないが、業務上必ずしも必要とは言えず、継続・発展することで性暴力に繋がり得る行為
ここで重要なのは、「子供の尊厳を侵害し得るものである」という認識に立つことです。
スタッフの意図や目的によってはリスクのある行為であると捉え、公私の区別が曖昧になったり、適切な距離感が失われたりすることで性暴力に至るリスクを未然に防ぐことが重要であるとされています。
「おそれがある」段階での防止措置
ガイドラインによれば、対象業務従事者による不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合には、法第6条等に規定される「児童対象性暴力等が行われるおそれがあると認める」ときに該当するものとして、防止措置を講じることが求められます。
つまり、実際に犯罪が起きる前であっても、不適切な兆候が見られた段階で、認定事業者としての適切な対応(防止措置)が必要になるということです。
ガイドラインが示す「不適切な行為」の具体例
どのような行為が不適切とされるのか、ガイドラインでは以下のような例が挙げられています。
| 「不適切な行為」の類型 | 「不適切な行為」の具体例 |
| 私的なコミュニケーション、面会、送迎等 | ・ 児童等と私的な連絡先(SNS アカウント、オンラインゲームのアカウント、メールアドレス等)を交換し、私的なやり取りを行う ・ 休日や放課後に、児童等と二人きりで私的に会う ・ 保護者の承諾がないまま、児童等の自宅で二人きりになる ・ 児童等を自宅に招き、二人きりになる ・ 不必要に、児童等を一人で車に乗せて、送迎を行う |
| 撮影 | ・ 私物のスマートフォンや、ルール外の方法で児童等の写真・動画を撮影・管理する ・ 業務上必要と考えられる範囲外で、児童等の写真や動画の撮影を行う |
| 密室 | ・ 不必要に児童等と密室で二人きりになろうとする(用務がないのに別室に呼び出す など) ・ 更衣や宿泊を伴う活動で、不必要に児童等と対象業務従事者が二人きりで更衣室やお風呂等を利用する |
| 身体接触 | ・ 児童等に不必要な接触を行う (必要以上に長時間抱きしめる、一般的ではない抱き方になっている など) ・ 業務上必要でないのに児童等を膝に乗せる、おんぶする など ※ 未就学児に対する膝に乗せる、おんぶするといった行為は、業務として行い得るものであることに留意。 ・ 業務上必要でないのに児童等にマッサージをする、児童等にマッサージをさせる、寝かしつけの際に特定の児童等とだけ添い寝をする ・ 視覚障害児の誘導時に必要以上に距離が近い |
| 排せつ介助等 | ・ 児童等の発達段階や特性から考えて、不必要な入浴及び排せつ介助を行おうとする ・ おむつ交換時に、衣服の上から陰部を触ったりつかむように確認したり、おむつの中に手を入れて確認するなど、誤解を受けるような仕方で交換する ・ 児童等が一人で排せつ、入浴、着替え等を行いたいとの意思を示している中で、わざわざ介助に入る ・ 特段の必要性がなく特定の児童等だけに排せつ介助を行おうとする |
| 更衣 | ・ 不必要に、更衣室や児童等が更衣中の部屋に入室する ・ 不特定多数の人の目がある中で児童等に更衣をさせる |
| 特別扱い | ・ 特定の児童等に高価な金品を与えたり、正当な理由なく声掛けや態度を変えたりする ・ 児童等の容姿等を過度にほめる ・ 特定の児童等の保育・介助等を、理由なく担当しようとする |
| その他 | ・ 児童等の衣服や持ち物を正当な理由なく触ったり、借りたりしようとす る ・ 従事者が過度に肌を露出する(性的手なずけにつながる可能性) |
求められる段階的な対応
不適切な行為に対しては、その状況に応じて以下のような対応が想定されています。
初回や比較的軽微な場合
まずは繰り返さないように「指導」を行い、注意深くその後の経過措置を行います。
繰り返し行われる、あるいは悪質な場合
指導に従わず反復されたり、態様が深刻であったりする場合は「重大な不適切な行為」と判断されるフェーズに移ります。
重大な不適切な行為
「重大な不適切な行為」とは、不適切な行為が繰り返されたり、その内容が極めて悪質であったりする場合を指します。
この段階に至ると、認定事業者には、性暴力が発生した時に準ずる「対象業務に従事させない(配置転換等)」という非常に重い判断が求められます。
「重大な不適切な行為」の定義と判断基準
ガイドラインでは、どのような場合に「重大」と判断すべきか、以下の基準を示しています。
反復性
不適切な行為について指導を受けたにもかかわらず、同様の行為を繰り返した場合
加害認識の欠如
対象業務従事者に自らの行為が不適切であるという認識がなく、改善が見込めない場合
被害の重大性・悪質性
児童等に与えた心理的影響が大きく、あるいはその態様が性暴力の一歩手前であると合理的に判断される場合
ガイドラインが示す「重大な不適切な行為」の具体例
具体的には、以下のような状況が「重大」なケースとして想定されています。
| 「重大な不適切な行為」の類型 | 「重大な不適切な行為」の具体例 |
| 私的なコミュニケーション、面会、送迎等 | ・ 保護者の意に反することを認識しながら、児童等の自宅等で二人きりになる |
| 身体接触 | ・ 児童等の意に反して、必要以上に長時間抱きしめる ・ 執拗に児童等にマッサージをする ※ いずれも、状況によっては児童対象性暴力等にも該当し得る |
求められる防止措置(業務からの離脱)
「重大な不適切な行為」が行われたと合理的に判断される場合、もはや指導や観察だけでは不十分です。
ガイドラインでは以下のような対応が求められています。
原則としての業務離脱
児童対象性暴力等が行われたと判断された場合に準じ、原則として当該従事者を「対象業務(こどもと接する業務)に従事させないこと」
配置転換等の実施
こどもと物理的・心理的に接触しない部署への配置転換や、自宅待機などの措置を講じることが、認定事業者としての適切な安全確保措置となります。
事業者が今すぐ取り組むべき「安全確保措置」
日本版DBS制度の認定を維持し、万が一のトラブルから組織を守るためには、ガイドラインに基づいた「現場の実態に即したルール作り」が不可欠です。
自社独自の「不適切な行為」を定め、周知する
「不適切な行為」の範囲は、塾、スポーツクラブ、放課後デイサービスなど、事業内容によって異なります。
オーダーメイドの基準作り
業務上の必要性を踏まえ、何が「不適切」にあたるのかを自社で定義し、服務規律(就業規則等)に反映させる必要があります。
対話を通じた決定
上下関係だけで決めるのではなく、現場スタッフとコミュニケーションを取りながら決めることが重要です。
これにより、スタッフの過度な萎縮を防ぎ、納得感のあるルールになります。
多角的な周知
スタッフだけでなく、こどもや保護者に対しても「当施設ではこのようなルールで運用しています」と周知し、相互に気配りができる環境を作ります。
日常業務における具体的な5つの対応策(防止措置)
ガイドラインでは、リスクを最小限に抑えるための具体的な工夫が示されています。
密室・私的交流の排除
可能な限り一対一の閉鎖環境を避け、私的なSNSやメールのやり取りを厳に慎むよう徹底します。
身体接触の事前合意と声掛け
スポーツ指導等で接触が必要な場合は、あらかじめ保護者と書面(個別契約等)で範囲を合意し、こどもに対しても「今からここに触れるよ」とその都度伝える工夫をします。
こどもからの接触への適切な対応
こどもが膝に乗ってきた場合などは、無下に断るのではなく「隣に座ろうね」と促し、他の職員から見える場所で対応するなど、安心感と安全性を両立させます。
緊急時の組織共有
事故等で急遽車で送迎するなど、やむを得ず一対一になる場合は、事前・事後にその経過を組織内で共有するルールを運用し、疑念を抱かせない透明性を確保します。
SNS利用の透明化
連絡手段としてSNSを使う際は、保護者や他の職員をグループに入れるなど「第三者の目」を確保します。個別相談を受けた場合は、私物端末を使わず、必ず上司へ報告する体制を整えます。
まとめ
「不適切な行為」の基準を定め、服務規律に反映させ、現場に周知する。このプロセスこそが、日本版DBS制度が求める「安全確保措置」の本質です。
当事務所では、各事業所の実態に合わせた服務規律の改定や、スタッフ向け研修のサポートを行っております。
こどもたちが安心して過ごせ、スタッフが自信を持って働ける環境づくりを、法務の側面からお手伝いいたします。
